私が子ども食堂のことを知ったのは2016年のことでした。
直ぐに何か所かの子ども食堂さんに見学をさせて貰いましたが「この活動が自分たちの子どもの通える場所に出来たら良いなぁ」などと、見に行った癖にどこか他人事の様に考えていました。
見学から一か月ほど経った辺りで「待っていても子ども食堂は自動的に生まれてこないし、増えもしない。せっかくいい活動だと思うけど広がるのには時間がかかるのかなぁ。勿体ないなぁ。」と思い始め、時間がたつに連れて増々その思いは強くなっていきます。
もうそうなると「自分で始めるしかないか」と考えも変化し始めていました。
今思うとその考えが自分を苦しめながらも成長させてくれる考えだったのですが(笑)

でも自分自身が福祉の世界やNPOの世界に足を踏み入れたこともないし、そもそも子ども食堂自体が「いい活動だけどまだまだ成長変化の途中」な活動だけに、子ども食堂のゴールも見えずに始める不安が幾ら考えても消えませんでした。
もうそうなると行動に移す時の自分へのきっかけが必要なんですが、その時の自分はまだまだスタートを切るきっかけが見つけることは出来ません。
でも考えていても先には進みません。
そうしてグルグルと考えるのにも疲れ「とにかく始めないと答えが出ないぞ、これは」と「始まったばかりの住民発信の活動だから、自分から初めてみよう。間違えたら修正するトライ&エラーの繰り返しでみんなが求める・喜んでくれる子ども食堂のゴールを探していこう」と、ゴールが見えない見切り発車をすることにしました。

と言ってもゴールがないスタートは幾ら何でも問題があるので分かりやすく「静岡市内の全ての小学校区に子ども食堂を作ろう。そしてそれを続けよう。目立つ存在じゃなくても良いから地域に溶け込んだ必要で喜ばれる活動としよう」と決めました。

その後すぐにそうした思いを様々な人に相談して回りましたが、当時は子ども食堂をネットワーク化して全ての小学校区に作ることも、貧困対策支援活動を前面に出さない地域に溶け込んだみんなが楽しく利用できる子ども食堂を理解してくださる人は少数でした。
当時の感覚はやっぱり子ども食堂は「貧困対策で行う地域互助活動」が考えやイメージの中心でした。

私は本を出させていただく機会があり、その中でも触れましたが子ども食堂を
・苦しみや辛さと言ったネガティブな問題を和らげ、楽しみや喜びと言ったポジティブな経験や思い出を増やす場所
であると考えています。
問題の根源をなくすことは子ども食堂の活動ではとっても難しいです。
でも、その問題を和らげたり、問題以外の部分で喜びを体験できることが子ども食堂で出来ると信じています。
子供達が自分の足で、自分の意志で行ける距離に地域の子ども食堂があって、楽しく過ごせて、みんなでご飯を食べて、普段経験できない人と交流できて、家庭と学校以外の場所がある事を楽しみにしてくれて、心配してくれる人がいることを知ってもらえて、様々な体験を出来る子ども食堂が出来たら良いなと考えています。

人から子ども食堂とは何だと尋ねられたら上の様に様々な事柄が実現している場所だと答えています。

子ども食堂の一つの活動の中に様々な柱が立っていて
貧困対策・孤食対策と言ったネガティブな問題に対する柱。
地域貢献・地域活性・地域交流と言った地域の中で必要とされる柱。
体験学習や食育、勉強支援・様々な人の価値観や生活様式に触れる学習や体験の場としての柱。
そうした多くの柱で子ども食堂は出来上がっています。
どの柱が必要で喜ばれるかは子どもたち一人一人で違いますし、開催地域によっても喜ばれる内容は違います。
ただ一つ言えることは、子ども食堂はどの地域で開催しても、どの子供たちにとっても喜ばれるということ。
必要としている子もいるし、楽しみにしてくれる子もいる。
勿論、興味がない子や必要としていない子もいる。
だけど喜ぶ子供たちが多いからこそ、これだけ多くの子ども食堂が日本中に広がっているのでしょう。

もちろん、子ども食堂のボランティアさんを筆頭に「子どもたちに何かしてあげたい」と言う大人の人の思いが溢れているから子ども食堂が増える原動力の一つだと思っています。
個人であれば現場で動いてくれるボランティアさん。
会社であれば子ども食堂を様々な形で協力して支えてくれる会社さん。
学校の先生も子ども食堂に理解してくださる方が増えて大変ありがたいです。

「静岡市内の全小学校に子ども食堂を作る」なんて大変なゴール設定をしてしまったので、私たちは大変苦しんでいます(笑)
けれどその苦しみがとっても嬉しいのも事実です。
コツコツと続けて、大変でも続けてきたらいつの間にか5年の月日が経って、会場数は16会場になりました。
まだまだ半分にもなっていないけれど、子ども食堂の開催日の配布チラシは月に1万枚ほどになり、市内の全小学生の4人に1人は子ども食堂の情報が伝わるようになっています。

私たちだけでは到底できないことが様々な人達の「子供たちや地域への思い」で実現しています。
「これってとっても凄いことなんじゃないかな?」
と、他人事の様に感動していたりもします。
税金も使わなくて、私たち団体には収益の事業もなくて、ただただ様々な方や会社さんの思いが今のネットワークを作り上げているからです。

そして有難いことに「子ども食堂に協力したい」と言う声も以前より増えています。
個人の方から、企業さんから、既存の組織さんから、学校さんからと様々な立場の方からです。
これからも私たちは多くの方の協力と思いを、子供たちや保護者さんや地域の方々に喜んで必要とされる子ども食堂の開設と運営と言う姿に変えて静岡をもっとよくして行こう!と苦しみながら考えています(笑)

最後になりますが、私は子ども食堂を医療に例えれば「健康診断」の場所だと考えています。
子供たち一人一人の様子を見ながら、問題があればより専門的な組織へと連絡し引き継ぐ。
問題がなければ「問題は無かったね」と喜ぶ。
皆さんも健康診断で異常があれば専門の医療へと進み、問題がなければ「良し良し」と喜ぶはずです。
子ども食堂は万能ではないし、抜本的に問題を解決する力もありません。
でも多くの子供たちの心や生活環境の「健康診断」を行って「よしよし、問題は無いね」と言える地域作りに協力していきたいと考えています。

長くなりましたが、2021年3月。
今の思いを記して。

NPO法人静岡市子ども食堂ネットワーク
理事長 飯沼直樹